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台北の夜市は、子ども時代の記憶そのもの。映画『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督インタビュー

2026.8.14

2026年8月14日公開の映画『左利きの少女』を手掛けた、ツォウ・シーチン監督に単独インタビュー。台北の夜市を舞台に選んだ理由、実際の夜市での撮影秘話、キャスティングの裏側、作品に込めた「家族」への思い、今後描きたいテーマまでたっぷり伺いました。

台北の夜市は、子ども時代の記憶そのもの。映画『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督インタビュー

台北・夜市の麺屋台を舞台に、≪左づかいは悪魔の子≫ と祖父に叱られたイージンと、それぞれに秘密を抱えた多世代家族を描く、驚きと感動に満ちた物語 ーー。

2026年8月14日(金)より全国公開される映画『左利きの少女』。台北に実在する「通化街夜市(臨江街夜市)」でロケ撮影が行われた本作は、2025年のカンヌ国際映画祭に正式出品され、さらにアカデミー賞®国際長編映画賞の台湾代表作品に選出されるなど、世界的にも大きな注目を集めています。

台北の夜市は、子ども時代の記憶そのもの。映画『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督インタビュー

そんな話題作『左利きの少女』に、Howto Taiwan編集長の小伶が推薦コメントを寄せたことは、前回の記事でもご紹介しましたが、さらに光栄なことに、本作を手がけたツォウ・シーチン監督に単独インタビューする機会をいただきました。

ツォウ監督は、ショーン・ベイカー監督と『テイクアウト』を共同監督し、その後も『タンジェリン』『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』『レッド・ロケット』などで、プロデューサーとして長年にわたり彼の作品を支えてきました。

台北の夜市は、子ども時代の記憶そのもの。映画『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督インタビュー

実は、もともとツォウ監督とショーン・ベイカー監督による作品の大ファンだった私……! 緊張しながら臨んだ今回のインタビューでは、ツォウ監督が初の単独長編監督作の舞台に、故郷・台北の「夜市」を選んだ理由をはじめ、実際に営業する夜市での撮影秘話、個性豊かな俳優陣との出会い、そして今後も描いていきたい「家族」というテーマについて伺いました。

※ インタビュー内には、映画の内容に触れている箇所があります! ネタバレを避けたい方はご注意ください

台湾の夜市は、子ども時代の記憶そのもの

―― 監督は台北で生まれ育ちました。初の単独長編監督作で、台北の夜市を舞台にした物語を描こうと思ったきっかけを教えてください。監督にとって、夜市はどのような場所ですか?

夜市は台湾を象徴するような場所です。台湾で育った人にとっては、とても特別な存在なのではないでしょうか。美味しい食べ物にあふれ、子どもたちが駆け回る ―― 私自身にとっては間違いなく子ども時代の記憶と結びついている場所です。

2003年に共同制作者のショーン・ベイカーが初めて台湾を訪れた際にも夜市に魅了され、いつか夜市を舞台にした物語を作りたいと考えていました。夜市で映画を撮ることは、ひとつの夢でもあったんです。

―― 数ある夜市のなかで、台北の通化街夜市(臨江街夜市)を選んだ理由はありますか?

2010年に脚本を書いていた頃、今回の舞台となる通化街夜市で「チョコレート」という愛称の5歳の女の子に出会いました。
彼女は、映画『左利きの少女』に登場するイージンと同じように、一人で夜市を走り回っていました。私たちは彼女の姿を追いかけるようになり、やがてその家族とも親しくなって、その後約10年間にわたって台北を訪れるたびに交流を続けていたんです。

夜市で商売を営む家族がどのように暮らしているのか? そこで育つ小さな女の子の日常はどのようなものなのか? 彼女たちとの交流を通して、たくさんのことを知ることができました。それが、この映画のための長いリサーチでもあったのだと思います。

屋台の店主を説得するまで、毎朝通い続けた2ヶ月間

―― この夜市は、台湾を訪れる観光客にとっても人気の場所ですよね。実際に営業している夜市での撮影は、とても大変だったのではないでしょうか?

台北の夜市は、子ども時代の記憶そのもの。映画『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督インタビュー

はい、毎日がとても刺激的で、同時にとても楽しかったです。私たちが撮りたかったのは、本物の夜市でした。作られたものではないリアルな姿を捉えたいという強い思いがあったんです。

映画に登場する麺屋台も、実際の店主から借りたものです。
そのお店は朝7時から夜7時まで営業していたので、夜に撮影する私たちにとっては理想的だったのですが、店主を説得するのに2ヶ月かかりました。最初に撮影の相談をしたときは、映画撮影には興味がない様子で「自分はただ商売をしたいだけだから」と断られてしまったんです。それでも諦められず、毎日のように朝7時や8時に店を訪ねました。店主と話し、彼の話を聞きながら、少しずつ関係を築いていきました。

そして2ヶ月ほど経った頃、「この人は諦めないんだな」と分かってくれたのでしょう。ついに屋台を貸してもらえることになりました。営業が終わる夜7時になると、店主は食材も含めて、屋台をすべてそのままの状態で私たちに渡してくれました。そこから私たちが入り、映画の撮影を始めていたんです。

―― 撮影現場で印象に残っていることがあれば教えてください。

本作は全編iPhoneで撮影しているので、一見しただけでは本格的な映画撮影には見えません。
ところが、撮影初日のスタッフは20人ほど屋台に集まっていたため、通りがかった人たちが「何を撮っているの?」「スターは誰?」と集まってきてしまったんです。誰もその場を離れようとせず、結局、初日は全く撮影になりませんでした。

そこで2日目以降はスタッフを5〜6人に減らし、さらに服装も「夜市の客に溶け込むように」と徹底しました。そうして1週間も経つ頃には、通行人たちは、どこで映画を撮っているのかさえ分からなくなっていました。俳優が立っている撮影用の屋台で、本当に麺を注文しようとする人がいたぐらいなんですよ(笑)。

台北の夜市は、子ども時代の記憶そのもの。映画『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督インタビュー

生き生きとしたキャスティングの裏側で

―― 登場人物がみな生き生きとしていて、本当に夜市で暮らしている人々を見ているようでした。キャスティングについても教えてください。

まず、姉のイーアン(宜安)を演じたマー・シーユエン(馬士媛)についてお話しします。
彼女のことはInstagramで見つけました。当時、私はニューヨークに住んでいましたが、できるだけ自分自身でキャストを発見したいと思い、ストリートキャスティングのような方法を取っていたんです。そこで毎晩のように、台湾の女性やモデルなどのプロフィールを見て回りました。

マー・シーユエンの顔を見つけた瞬間、イーアンという役が持つ雰囲気やオーラを感じました。そこで直接連絡を取り、オーディション映像を送ってもらったところ、とても自然で素晴らしい演技を見せてくれました。彼女にとって本作が初めての本格的な演技経験でしたが、イーアンというキャラクターのオーラを完璧に纏っていました。彼女を見つけられたことは、とても幸運だったと思います。

台北の夜市は、子ども時代の記憶そのもの。映画『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督インタビュー

次に、母親のシューフェン(淑芬)を演じてくれた ジャネル・ツァイ(蔡淑臻)は、台湾で有名なモデルとして活動し、その後テレビドラマにも出演してきた俳優です。

ジャネルは、とても印象的な顔だちを持っていますし、テレビドラマでの演技も気に入っていました。オーディション映像を送ってもらいましたが、やはり素晴らしかったです。実は彼女自身の家族にも台湾の伝統的な価値観が残っていたことから、シューフェンの置かれた状況や役柄を深く理解してくれていました。

―― 主人公のイージン役、ニーナ・イエとの出会いはどうでしたか?

台北の夜市は、子ども時代の記憶そのもの。映画『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督インタビュー

最も難航したのが、イージン(宜靜)役のキャスティングでしたね。
Facebookを通じて募集し、70人以上のオーディション映像を見ましたが、なかなか「この子だ」と思える存在に出会えませんでした。

最終的に、台湾のエージェントから紹介されたのがニーナ・イエ(葉子綺)でした。当時、彼女は台湾のテレビCMに引っ張りだこの人気子役だったのですが、私たちが求めていたイノセントな表情と顔だちが印象的でした。そして実際に会い、オーディションを見たところ、演技もとても自然でした。

イージンという役に必要だったのは、まさにその自然さと無邪気さだったんです。

夜市は、みんなで子どもを見守る大きなコミュニティ

※ここからは、物語の一部に触れています。

―― イージンが、左手で盗んだものを夜市の店に返しに行く場面が印象に残っています。店の人たちは彼女を強く責めず、「もうしないでね」と優しく受け入れましたよね。あの場面には、どのような思いが込められているのでしょうか?

実はあの温かいやり取りも、本作のモデルとなった少女「チョコレート」の観察から生まれたエピソードです。
彼女はまるで自分の庭のように夜市を駆け回り、そこにいるほとんど全員と顔見知りでした。彼女が歩けば、みんなが声をかけ、店の人たちがちょっとしたものをプレゼントすることもありました。ですから、もしその子が何かをしてしまったとしても、店の人たちは彼女をよく知っています。まだ幼い子どもで、悪意があったわけではないと分かっているから、許すことができるんです。

夜市は、ひとつの大きなコミュニティでもあります。多くの家族が夜市で商売をし、子どもたちも親と一緒にそこで過ごしています。子ども同士が遊び、ほかの店の人たちも、親に代わって自然にその子たちを見守る。あのシーンは、実際の夜市で日常的に起きていた、リアルな関係性をそのまま映し出しているんです。

台北の夜市は、子ども時代の記憶そのもの。映画『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督インタビュー

次に描きたいのは「自分で選んだ家族」

―― 今後、監督として挑戦したいテーマや、いつか映画にしたい物語はありますか?

今、語りたい物語はたくさんありますが、やはり「家族」というテーマには強く惹かれています。血のつながった家族だけではなく、「自分で選んだ家族(Chosen Family)」にも関心があります。

例えば、異国へ移住し、本来の家族と離れて暮らす人々が、周囲の友人たちと家族のような絆を築いていく。そうした人たちが、自分で選んだ家族になっていくのです。これからも、そういったさまざまな家族の形を掘り下げていきたいですね。

台北の夜市は、子ども時代の記憶そのもの。映画『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督インタビュー

音楽のないエンドクレジットに込めた思い

―― 最後に、監督のファンとして個人的に伺いたかった質問です。監督が携わってきた作品では、エンドクレジットに音楽を使わないことが多いですよね。そこには、どのような理由があるのでしょうか?

本作 『左利きの少女』では、エンドクレジットの背景でも、夜市の映像が流れ続けています。これには、映画の世界からすぐに引き剥がすのではなく、物語の中にそのまま留まってほしいという意図があります。夜市の日常もまた、この映画の一部だからです。

それから、私たちの作品づくりは「ドグマ95(※編集部注釈)」から大きな影響を受けています。実際の生活をもとに、実在する場所で、人々のリアルな暮らしを撮る。そうした考え方が、音楽を使わずに物語を終える演出にもつながっています。

(※編集部注釈)「ドグマ95」
1995年にデンマークの映画監督たちが提唱した映画運動。作り込んだセットや過度な演出を避け、ロケ撮影や自然光などを用いて、現実に近い映像表現を目指した。

ーー 本日はありがとうございました。リアリティのある物語の舞台裏のお話まで聞くことができて、感無量です。まもなく日本で公開される本作が、沢山の方の心を動かしますように……!

映画『左利きの少女』作品情報

台北・夜市の麵屋台を舞台に、≪左づかいは悪魔の子≫ と祖父に叱られたイージンと、罪を胸に秘めた多世代家族を活写する、驚きと感動に満ちた『左利きの少女』は8月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国公開!

台北の夜市は、子ども時代の記憶そのもの。映画『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督インタビュー

監督:ツォウ・シーチン
脚本:ツォウ・シーチン、ショーン・ベイカー
製作・編集:ショーン・ベイカー
出演:ニーナ・イエ、マー・シーユエン、ジャネル・ツァイ
原題:左撇子女孩
英題:LEFT-HANDED GIRL
上映時間:108分
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

公式サイト:https://cinema.starcat.co.jp/left-handed-girl/
公式X:https://x.com/lefthanded0814

©2025 LEFT-HANDED GIRL FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

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