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屏東恆春の音楽フェス「2022年 半島歌謠祭」に参加してきました!【後編】

2022.5.17

台湾最南端に位置する恆春半島にて行われた音楽イベント「2022年 半島歌謡祭」に参加してきました! 子供からおばあちゃんまで、年齢を問わずみんなが主役になる地元密着型のイベントの様子を、前後編のレポートでお届けします♪

台湾最南端に位置する恆春半島。台湾一のビーチリゾート地として国内外を問わず人気のある恆春。 交通も決して便利ではなく、厳しい自然環境の中で生活してきた恆春の人々は、日々の苦しさや想いを民謡にして歌ってきたといいます。そして、長年愛されてきたこの「民謡」を新しい形で伝承していこうという取り組みが、恆春を愛する若者を中心として、地域を挙げて続けられています。

その代表的なイベントが、毎年開催されている音楽フェス「半島歌謡祭」! 幼稚園児の子供たちから100歳近いおばあちゃん達まで、年齢を問わずみんなが主役の地元密着型イベントとして知られています。

1-10 写真提供:半島歌謡祭

前編記事では、約140年前の清国時代に建てられた城門と城壁が残っている遺跡都市としての恆春の魅力や、半島歌謡祭のコンセプトなどをご紹介してきました。続く後編記事では、2022年の半島歌謡祭の様子をたっぷりお届けします♪

2022年のイベントテーマは「Hear Here 聽見在地的聲音」

2-1 写真提供:半島歌謡祭

年に1回開催され、今回で4年目となる半島歌謡祭。2022年3月18日~20日の3日間に渡って、恆春西門そばの広場にて開催されました。 こちらのイベント、なんと入場料は無料。屋外のステージなので、誰でも自由に鑑賞できます。台湾の街角でよく見かける赤いプラスチック椅子が観客席、というこの地元感がたまりません♪

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半島歌謡祭では、「伝統的な民謡」と「多元的な現代音楽」とを融合させ、「古いものを守りながらもイノベーションを起こしていく!」(中国語で「守舊如新」)をテーマに、毎年様々な取り組みが行われています。

今回の半島歌謡祭のサブタイトルは「Hear Here 聽見在地的聲音」♪ 住民みんなが参加できるプログラムが沢山用意された、まさに“恆春ローカルの声が聴こえる”、地元密着型のイベントでした。

子どもからおばあちゃんまで千人以上が参加したメインイベント、「半島火花」

今回のメインイベント「半島火花」では、新×旧の融合で新たな火花を散らそう!というネーミングのとおり、様々な試みが行われました。

地元の幼稚園児達からなんと100歳近いおばあちゃんまで、千人以上の住民たちが集まり、月琴を弾きながら恒春民謡を大合唱するという超大スケールのイベント、「千人伝唱」は必見です!

実はこの千人伝唱、2015年に初めて実施された際に、なんと「世界最多人数による同時月琴演奏」でギネス世界記録に登録されたのだそう。その後も、地域や学校で民謡を広める運動が続けられ、今回再び大集結することになりました。ここ恒春の小学校では、数年前から最初に習う楽器がリコーダーではなく、月琴になったというから驚きです!

2-3写真提供:半島歌謡祭

本番開始とともに、昼間は静かに時を刻んでいた西門が、とたんに熱気あふれるステージに大変身!140年以上の歴史のある古跡をまるっとイベントの舞台にできてしまうのも、この半島歌謡祭ならではですね。

2-4写真提供:半島歌謡祭

城壁一面に子ども達が大集結している様子は、実際に目にすると想像以上の大迫力でした!

1曲目に歌われたのは恒春民謡「守牛調」。「コロナが収まったら民謡を聴きにこの素晴らしい恒春に遊びにおいで~」とアレンジされた歌詞からも、このコロナ渦を乗り越えてきた地元の人々の想いが伝わってきました。

2-5写真提供:半島歌謡祭

続けて2曲目は、アップテンポな曲調の「半島風聲相放伴」。
全身を使って一生懸命歌うちびっ子達の姿に心打たれ、思わず涙ぐんでしまったほど。恒春の春の夜風に乗って、千人の熱気が波のように押し寄せてきました。

2-6半島歌謡祭

守牛調と半島風聲相放伴はぜひこちらで聴いてみてくださいね。

また、今回は従来の千人伝唱にとどまらず、より国際的で多元的なイノベーションにも挑戦!アメリカのマーベル映画の作曲家Bobby Tahouri氏に依頼し、恒春民謡「思想起」をアレンジして創作してもらった「恆春山海交響曲」を、台北愛楽管弦楽団(台北フィルハーモニーオーケストラ)が演奏するという豪華コラボレーションが実現しました。こちらの演出も圧巻でした!

2-7 2-8写真提供:半島歌謡祭

更に、恒春民謡の歌い手であり、2020年には重要伝統芸術の保存者として人間国宝に認定された陳英さんが独唱を披露する場面では、観衆から大きな拍手が上がりました!

2-9写真提供:半島歌謡祭

おばあちゃんたちが大切にしてきた民謡を、次世代の子ども達に伝唱していく。更には県外、国外までにもその輪を広げていこうというこの取り組み。

2-9写真提供:半島歌謡祭

観客の私たちまでもその歴史的な1ページに参加させてもらえたように感じ、とても心温まる体験でした。

民謡を愛してきた地元のおばあちゃん達による「詩市集」

恆春民謡の主な歌い手は、地元のおばあちゃん達。彼女たちが主役の「詩市集」も見逃せないイベントの1つです。

2-9写真提供:半島歌謡祭

市集(マルシェ)では、歌い手のおばあちゃん達から直接恆春のローカルグルメを買うことができます。台湾らしい可愛いテーブルに、それぞれ思い入れのある青草茶や愛玉、お米やお茶などの地元の農産物が並んでいました。

そして、さきほどまでマルシェだった場所が、あっという間に民謡の舞台へとチェンジ! ストーリーに合わせて、独唱と合唱を交えて歌われていく民謡は、まるで舞台劇を見ているようでした。

半島歌謡祭2022

特に印象的だったのは、恆春民謡の代表曲の1つ「牛母伴」(上写真はその一場面)。親が決めた相手のところへお嫁に行く娘を見送る、前夜のお別れの場面を歌った悲しいメロディーの民謡です。 今まで民謡というとなんとなく朗らかなイメージがあったので、歌い手の皆さんがすすり泣きながら、それぞれの役を演じて歌っていく様子は、とても新鮮で、恆春民謡の力強さを感じました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA右から黄却銀さん、林秋月さん

今回この詩市集に参加されていた黄却銀さんと林秋月さん。恒春民謡の伝道師としてご活躍されています。 小さい頃、ご両親が歌う民謡を聴きながら育ったという黄さん。民謡は喜怒哀楽の表現方法の1つとして、仕事をしながら、また婚礼行事の際によく歌われていたのだそうです。黄さんご自身も、手作りの青草茶をトラックで売りながら、それに合わせて自身で創った民謡を流してきたのだそう。また、市民の学びの場である「社区大学」で、恒春民謡の講師を長年務めてきました。

林さんは、その黄さんの生徒のお一人だったそうです。普段は恒春半島のガイドのお仕事をしている林さん。民謡やガイドの仕事を通じて、地元恒春の素晴らしさを再認識し、地元への愛情がますます深まったといいます。 「民謡は人生経験を積めば積むほど、その歌にも味が出てくるのよ」とお二人はおっしゃっていました。

伝統的なメロディーを新たな形で表現していく挑戦ー「老調新聲」

老調新聲」は、半島歌謡祭で毎年人気のイベントです!
国内外の様々な音楽人を招待して、新しい視点から伝統的な民謡を解釈してもらい、新しい演出方法によってイノベーションを起こそう!という本企画。

以前、日本のギタリストであり作曲家の渥美幸裕さんも、この企画に招待され、恒春に1か月滞在しながら、地元の方たちと一緒に恒春民謡を創作したことがあるそうです。

今年のゲストは、今台湾で人気のスリーピースバンド Elephant Gymと、台湾語ラッパーの李英宏aka DJ Didilong。この日のためにそれぞれの音楽観に基づいてアレンジされた恒春民謡が特別に披露されましたよ!

ベースで表現したElephant Gymによる「守牛調」

2-14写真提供:半島歌謡祭

Elephant Gym(エレファントジム) は、高雄出身のスリーピースバンド。今最も影響⼒のあるアジアのインディーズバンドとも言われ、変則的なリズムと鋭角的な不協和音が特徴のマスロックバンドです。彼らは日本でも積極的に活動を展開していて、今年はフジロックフェスティバル’22への出演も決定しています。

そんなElephant Gymが今回アレンジしたのは、恒春民謡の「守牛調」。仕事で地元高雄を離れることが多い彼らは、「故郷を懐かしむ想い」を歌っている守牛調にとても共感したそうです。

伝統的な月琴のメロディーを、凱婷(ベース&ボーカル)がベースでアレンジしたElephant Gym版の守牛調は、新鮮味がありながらも、恒春民謡のじっとりとした情感がたっぷりと伝わってきました!

2-15 写真提供:半島歌謡祭

今回披露された「守牛調」はElephant Gymの公式インスタグラムで公開されています。是非聞いてみてくださいね! → https://www.instagram.com/reel/CbOp2vhjXpl/?igshid=NDA1YzNhOGU=

台湾語ラッパー 李英宏 aka DJ Didilongによる「牛母伴」

2-15(1)写真提供:半島歌謡祭

李英宏(リー・インホン) aka DJ Didilong は、台湾語のラップを得意とする実力派歌手。2016年にリリースした台湾語がメインのアルバム「台北直直撞」は、台湾の若者の間で大ヒットしました。

現代的なヒップホップに伝統的な台湾語を多用して気持ちを表現するのが得意な彼は、今回「牛母伴」をアレンジ。哀愁漂う牛母伴の曲調を、完全にブルースに変えて演奏してしまうのではなく、民謡独自の特徴を残したまま、流行音楽の要素も融合させつつ、旋律を完成させたそうです。

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子どもたちからお年寄りまで、新しくアレンジされた民謡に皆さん聴き入っていました。

李英宏については、以前Howto Taiwanでインタビューしたこちらの記事もチェックしてみてくださいね。

満州民謡が題材の絵本「朵朵的禮物」を地元の子供たちが影絵劇に

最後にご紹介するのは「朵朵的禮物(duǒ duǒ de lǐ wù/ドードーダリーウー)」という絵本。民謡を絵本の形で子ども達に伝えようという新しい取り組みです。 物語の舞台は、恒春半島の東部地域の「満州」。灰色の髪をもつ女の子の菲菲(フェイフェイ) と片耳うさぎのぬいぐるみの朵朵(ドードー)が、もう片方の耳の行方を追って旅に出るという、ファンタジーなストーリーです。

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作者の楊さんは満州のおばあちゃんたちから聞いた実話を元に、自身の4年間の恆春生活の体験も交えて、このストーリーを作り上げたのだそうです。 絵本のほかに、オーディオブックにもなっていて、耳でも楽しむことができます。バックミュージックになってる満洲民謡は、サウンドエンジニアの黄さんが満洲のおばあちゃん達と一緒に仕事をした経験を通じて、彼女達から聞いた話や民謡要素を基にアレンジしたもの。また、風や砂の音は、実際に現地まで行って録音したんだそうです。

2-15(1)写真提供:半島歌謡祭

今回のイベントでは、この絵本が無独有偶工作室劇団と地元の子ども達の手によって影絵劇へと進化しました! オーディオストーリーに影絵による動きがプラスされることによって、民謡で歌われている満洲の大自然がありありと感じられました。

2-19写真提供:半島歌謡祭

OLYMPUS DIGITAL CAMERA右から作者の楊雅儒さん、音楽担当の黄可樵さん

日本からもStreetVoice(台湾のストリートカルチャーや若手クリエイターを支持する音楽プラットフォーム)で「朵朵的禮物」のオーディオストーリーを聞くことができますよ(言語は中国語)。物語に合わせてアレンジされた満州民謡、そして恒春の大自然をぜひ感じてみてくださいね。 https://streetvoice.com/mjfolksong/songs/633596/

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今回の半島歌謡祭、民謡という音楽を楽しめたのはもちろん、民謡という文化を伝承していくための様々な試みを実際に体験させてもらったことで、恆春半島の歴史や文化、更にそこで生活してきた地元の方々の思いまで広く深く知ることができて、とても心に残るイベントでした! 来年の半島歌謡祭にはぜひ皆さんにも参加していただき、よりディープな恆春の魅力を感じてもらえたらなぁと思います♡

前後編、かなりの長編となってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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