2024.9.2
作家、MV監督としても活躍する傅天余(フー・ティエンユー)監督が、自身の母親をモデルにシナリオを書き上げた台湾映画『本日公休』が、2024年9月20日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国の劇場にて順次公開決定! 公開を記念した監督インタビューをお届けします。
第18回大阪アジアン映画祭で、観客賞と薬師真珠賞(俳優賞)をW受賞し、日本での劇場公開が待ち望まれていた台湾映画『本日公休』が、9月20日(金)より、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国の劇場にて順次公開されます。
蔡依林や、S.H.E、林俊傑など、台湾を代表する音楽アーティストのMVなども手掛けてきた傅天余(フー・ティエンユー)監督が、自身の母をモデルに作り上げた、心温まる理髪店の物語。撮影は、監督の実家で実際に営んでいる理髪店で行われ、3年の月日をかけて完成させたそう。全編を通じて柔らかなノスタルジーを感じさせながらも、家族間に波立つ感情や、“老い”を受け入ていく心情、新たな希望を見出す道程を、リアルで現代的な視点を交えながら繊細に描き出し、台湾では国内新作映画初登場1位のヒットスタートを切りました。
主人公のアールイ役には、1999年以来、映画の出演から遠ざかっていた名優、陸⼩芬(ルー・シャオフェン)が24年ぶりに銀幕に主演復帰。「こんな脚本をずっと待っていた」と出演を即決したことも話題になっています。
9月20日(金)の劇場公開、また、9月9日(月)に行われる、Howto Taiwanでの特別限定試写会イベントに先駆けて、本作品について傅天余(フー・ティエンユー)監督へのインタビューを行いました。
※ インタビュー内に、映画の内容に触れている箇所があります! ネタバレしたくない方はご注意ください。
ー 本作は約三年の年月をかけて撮影されたということですが、キャストの皆さんとの特に印象に残っているエピソードや、制作において苦労された点があれば教えてください。
この作品は自分の母親をモデルにした物語で、描きたかったのは私が子供の頃から大人になるまでずっと見てきた景色そのものです。そういった意味でも、一番苦労したのは、主役のアールイを演じる女優さんを見つけることでした。ただ演じるだけではなく、実際に人のヘアカットをするなど理容師としての技術が必要とされます。台湾のさまざまな女優さんの可能性を探りましたが、最終的に白羽の矢が立ったのが、台湾の名優として知られる陸⼩芬(ルー・シャオフェン)さんでした。
とはいえ彼女は20年以上、映画作品には出演していません。どうすれば彼女に出演してもらえるか? どんな条件を出せば説得できるか? と悩みながら打診をしたんですが、脚本をお送りした数日後には、彼女から会いたいと言われました。初めてお話ししたときはすごく緊張しましたが「この脚本が本当に気に入ったからぜひ演じたい」と言ってもらえたんです。あまりにもあっさりとした返答で驚いたのですが、すごく嬉しかったですね。
主役を演じることが決まってから、陸さんには約半年の時間をかけて、実際の理髪店で、髪を切る、髭を剃る、髪の毛を乾かしセットする、などすべての工程を特訓してもらいました。素晴らしいハサミ捌きで、撮影終了後には「もしわたしが女優を辞めたら、理容師としてやっていく」と陸さんも話していました(笑)。
ー 長らく銀幕から離れていた陸⼩芬さんですが、本作の脚本のどのような点が陸さんの心を動かしたのでしょうか。監督自身はどのように思われてますか?
陸⼩芬さんは、台湾の映画史の中でも歴史に残る女優で、若い頃からさまざまなジャンルの映画を演じてこられました。特に多かったのは、黒社会に生きる人物で、非常に突出した過激な役柄が多かったんです。それから長い月日を経て、今回24年ぶりに映画作品への出演を決めた理由を聞くと、以前出演していた作品は商業的なものが多く、すごくオーバーな演技を求められていて、自分自身はそういった役柄があまり好きではなかった、とのことでした。
それよりも今演じてみたいのは「ごく普通の人」「平凡な人」だと。
だけど、普通の人を演じるのが実は一番難しいんです。平凡ではあるけれど、その中には人の喜怒哀楽があります。これを自分がどう演じられるのか? 彼女にとってはずっと挑戦してたいと願っていたテーマでもあり、神様がその願いを叶えてくれたように感じたと話していました。
ー 次に、アールイのモデルになったお母様について教えてください。 映画の中ではいつも自分よりも他人を優先させたり、常連さんたちに電話したりとマメな様子でしたが、実際の監督のお母様もそのような女性なのでしょうか?
完全にそうです(笑)。私の母親はまさに映画の中のアールイそのものですね。
私がこの作品の中で表現したかったことの一つに、 “台湾のおばさんのリアルな姿” というのがあります。台湾のおばさんといえば、いつも元気で声が大きくて、友達がたくさんいて、あちこち電話をしたり出かけたりと楽しそう。自分の子供のことはもちろん、周りの人たちの世話をいつも焼いていて、とにかく温かく情熱的な人たちです。日本の皆さんも台湾旅行へきたときに、こんな “台湾のおばさん” の温かさに触れたことがあるのではないでしょうか?
私の母親は、まさにこの標準的な台湾のおばさんです。いつも携帯が鳴っていて、私よりもずっと忙しそう(笑)。そんな台湾のおばちゃんたちのエネルギッシュな姿が、映画を通して伝わっていたら嬉しいです。
ー 台湾のおばさんの元気で楽しそうな姿! わたしも観ていて、おもわず笑ってしまうシーンもありました。一方で、「娘」としての監督はどうですか? 映画の中では、アールイの子どもたちは母親と違う考え方を持っていたり、母親の行動に反対するシーンもありましたが……。
私が思うに、日本や台湾、国を問わず、私たち子供と父親や母親の意見が一致しないことは多いですよね。両親の世代とはどうしても価値観の違いがあります。
この作品の中に登場する3人の子どもたちもまさにそうで、だからこそ、母親にキツい言い方をしたり、文句を言ったりします。家を買うにしても、結婚にしても、仕事にしても、何をするにも母親は自分の意見を主張してきますから(笑)。
私自身もそうです。だから脚本を作るときには、まさに自分がリアルに言いそうな言葉遣いを台詞として書いたのですが、実際に完成した作品を見てみると「ちょっと言い過ぎだな」と罪悪感を抱くところはありました(笑)。でもきっと、母親を煩わしく思ったり、干渉しすぎだと感じたり。それはどの国でも同じですよね。
ー 次に、映画の中の登場人物について教えてください。 私がすごく印象に残ったのは、アールイと、アールイの娘の元夫であるチュアンとの関係でした。血がつながった親子ではなくとも二人には強い絆を感じたのですが、この関係を描こうと思った理由について教えてください。
良い質問をありがとうございます。
劇中でアールイと3人の子どもたちの関係といえば、いつも意見が一致せずに喧嘩ばかりしているイメージですが、娘の元夫であるチュアンとは違います。アールイとチュアンはいつも周りのことを優先して行動したりと性格が似ていることもあって、お互いに一番理解しあえる関係であり、心が通じ合っているんです。
これは私の個人的な意見ですが、家族というのはすごく近い関係だけれど、近いがゆえに理解できないことや、お互いの意見を素直に聞くことができない場面も多々あります。アールイとチュアンは血縁関係はないけれど、だからこそお互いを大事にしたり、他の家族よりもまめに世話を焼いたりできるのではないでしょうか。
実はこの設定は、私の実生活が元になっていて、チュアンのモデルは、私の妹の元夫なんです……!
台湾は離婚率が高く妹も離婚しているのですが、元夫と家族はいまも親しくしているし、劇中のチュアンと同じように、実際に私の母親の理髪店に髪を切りに来たりしているんです。
そんな人間関係を観察する中で、人と人の絆は、たとえ他人であっても、その人を理解できるか、思いやることができるか、ということこそが重要なのだと感じました。アールイとチュアンの関係を描いた理由にはそんな背景があります。
ー なんと、チュアンにもモデルがいたとは……!
さらに踏み込んだことを聞いてしまいますが、別れてしまったチュアンとリンについて教えてください。彼らが復縁することを周りの人たちはなんとなく願っているような、観客も復縁する展開を期待したように感じたのですが、実際にそうはなりませんでした。監督が、あえてそのようなシナリオにしたのはなぜですか?
これもひとつ、観客の皆さんに映画を通して考えてほしいと思っていたことです。
映画の中で、チュアンとリンはひとつの家族であったけれど、別れてしまいます。だけど別れたあとも家族と仲良くしているし、チュアンはすごくいい人だし、どうして復縁しないの? と。実際に私も沢山の人に聞かれました(笑)。
だけどこれも実生活の中ではよくある話で「あなたたちはこうしたらいいのに」「きっとこうすべき」って。だけどあなたは彼ら本人じゃないでしょ? と(笑)。映画の中では母親のアールイも心の中では復縁を願っていましたが、やっぱりそこには本人たちにしか分からない感情があります。人と人との関係は、周りが思うほどたやすくないということです。
彼らはすごく親しくて良い関係にも見えますが、他の人たちには分からない問題をたくさん抱えていました。誰もがそれぞれに思う感情や考えがあり、決断した選択があり、そしてそれは本人たちの自由であること。そういうことを映画を通して感じてもらいたいと。そんな狙いがあったんです。
ー なるほど……。確かに自分も「こうしたらいいのに」を他人に押し付けていたような気持ちになって、はっとさせられますね。
それでは最後の質問です。この作品を初めて観たときに、これは働く女性を応援する映画だなと感じたのですが、監督から「働く女性」に向けての想いがあれば共有していただきたいです。
はい。私がこれまで女性が主人公の作品を通して感じていたのは、女性の人生の価値や幸せが「家庭」や「家族」を通して描かれることが多いということでした。ですが私自身、働く母親を見ていて思ったのは、それがどんな年代の女性であっても「母親」や「妻であること」以前に、彼女たちにはそれぞれの自分だけの世界があるということです。
パートナーや子供のためだけではなく、仕事をしている一人の個人として、一生懸命に生きている人がたくさんいる。そしてそこにはお客さんとの関係があり、家族の反対を押し切ってでもお客さんのために行動する、という決断をすることもある。そうした働く女性の誇らしい姿を讃えたいという気持ちがありました。
この作品の主人公は、ごく普通の理髪店で働く女性を描いた物語です。
ですが、どんな仕事をしていたとしても、それが平凡な仕事であったとしても、そのどれもが素晴らしく価値のあるものだと。女性の人生の価値は、家庭や愛情、婚姻だけでは描けないと。そんなメッセージが、作品を通して伝わっていれば嬉しいです。
ー うう……。お話を聞いていて、監督の温かい想いが伝わり、泣きそうになってしまいました。貴重な裏話や、作品に込めたメッセージを聞かせていただきありがとうございました!
ドタバタと日常を生きる私たちの胸に沁みる、素晴らしい作品です。ぜひ皆さん劇場へ足を運んでみてくださいね! 作品のさらに詳しい情報はこちらから
『本日公休』は、9月20日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。台湾版ビジュアルのポストカード2枚セット付き前売券1,500円(税込)が、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座で好評発売中。
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『本日公休』
9月20日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
(c) 2023 Bole Film Co., Ltd. ASOBI Production Co., Ltd. All Rights Reserved
配給:ザジフィルムズ / オリオフィルムズ
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